1996.11.12/渋谷ON AIR WEST



とうとう、この日がやって来た。
バンド名そのまんまの、「りんごとなし?」というタイトルが付けられた、a&p、記念すべきデビューワンマンライブ。
思えば、長い道のりだったような気もする。この日の為(だけではないが)に配ったビラは、コアなファンで組織されているプロモーションチームだけでも2万枚以上。他にも、方々のライブ会場でビラを折り込んで下さったホットスタッフさん、たむとむスコープさん、そして今回の仕切であるスキット!さん、舞台制作のSuper muzakさん、可愛い!と、どこでも大評判のビラを作ってくれたグラフィック・デザイナーのさん、ロック座/小川氏を始めとするシャリラ・レコードの皆さん、インディビジュアル・レコードの皆さん、スタイリストの浜野さん、ヘアメイクの江利川さん、etc……。この沢山の人達のバックアップがなければ、今日という日は迎えられなかっただろう。
私にとって、そしてきっとメンバーや他のスタッフにとっても、デビューシングルが発売された10月25日と同じくらい、いやそれ以上に、思い出深い1日になることは、間違いない。

外は朝からあいにくの曇り空。時折、ちいさな雨粒がぱらつく。現場のスタッフ全員が、外に出てくる度に「降らなきゃいいけど」、空を見上げて呟いている。
今日のリハーサル、ロビーで聴いていただけだったが、お世辞にも良いとは言えない。ここ最近の過密スケジュールと唄い過ぎで岡田の声の調子もいまひとつ。しかし、今はまだリハーサル。本番が良ければ、それでいいのだ。リハが悪い日は本番バッチリ、というジンクスを持つこのバンド、これで今日のステージは成功を約束されたようなもんである。
リハ終了後、各々楽屋弁当を少しだけ食べながら、衣装に着替えたり、ヘアメイクをしてもらったり。今日の衣装、何が凄いって靴が凄い。特に岡田に用意された靴は某超有名アイドルが履いた、しかもアイリッシュ・セッター。スタイリスト嬢曰く「服はあげてもいいけど、靴だけは絶対駄目」。今日のこの楽屋でこの言葉、何度聞いたことか…(岡田は履いて帰ると言い張っていた)。
なんだかいつもよりも和やかな、でもテンションの高い楽屋に、スタッフから「開場しました」という連絡が入る。だんだんと、そわそわしてくるメンバー。彼らの令で、会場内を視察に行く(計2回)。「知らない子が沢山いるよ」、私の言葉に皆、少々の驚きと嬉しさの表情。メイクも済んで普段より5割増(以上かも)男前になった4人のテンションは、静かにだがどんどん上がっていく。
本番直前、「超満員だぞ」というスタッフ氏の声に、「嘘だろ」と言いた気な様子。しかし、本番開始時刻を10分遅らせたのにも関わらず、未だお客さんが会場に入りきれていないのでもう5分押し、という説明に全員納得しつつ、やはり驚きは隠せない。
19:15、本番開始。ステージ口まで、メンバーを見送る。いつものSEが流れ出し、いつもと同じようにステージへ上がっていく。そう、デビューワンマンだからって何も変わらない。いつものように、自分達が楽しめるステージを演るだけだ。

その、「自分達が楽しめるステージ」、私は残念ながら殆ど観ていない。仕事中はいつもそうなのだが、今回はとにかくお客さんが多くて(本当に超満員で、「前に詰めて」というMCを入れなければならなかった程)、会場内に立っていられない。私の後ろにお金を払って観に来てくれた人がいると思うと、楽屋でモニターを観ているのが精一杯だった。それも落ち着いては観ちゃいられないのだが…。暫くしたら、ビデオを見せてもらおう。

アンコールの”ときには空”で、お客さんの頭上から沢山の風船が舞い降りた。残念なことに、私は風船を落とす係でもあったので、この目で見ることは出来なかったのだが、とても綺麗だったそうだ。足下が風船だらけで動きにくそうなメンバーを見ながら、ほんの少し、目が潤んだ。記念に持ち帰ろうと抱えているお客さんが微笑ましく、嬉しかった。

メンバーの着替えが済んでから、残った関係者の方々と共に、お疲れさまの乾杯をした。こんなに沢山の人が、a&pに期待してくれているのかと思うと、何故だか私まで緊張した。

機材の搬出がほぼ終了してから、2階席から会場を眺めた。ここから、a&pの新たな「ステージ」が始まったのだ。その大切な記念日に、ここにこうしていられたことが、私にとっては一番嬉しい。